SIGGRAPH はコンピュータグラフィクス (CG) やインタラクティブ技術 (UI) などに関する皆さんもよくご存知の著名な学会で毎年米国にて開催されています。 今年 はカリフォルニア州サンディエゴにて 8月 5日から 9日の会期で行われ、 25000人の総参加者、論文セッションだけでも 5000 人超の参加者を集めました。投稿された論文 455本のうち、採択されたのは 108本で 23% の採択率でした。圧巻なのは学会にレジストレーションするともらえる配布物のセットで、全ページがカラー印刷されている論文抄録集のほかに DVD-ROM 2枚とビデオを納めた DVD 2枚が付属し、これだけでも学会の内容が充実していることを感じ取ることが出来ると思います。
全般的な印象としては、 2つのパラレルセッションで構成された論文発表トラックがとても充実していたように思います。 Microsoft Research が相変わらず、 この分野においてとても強いプレゼンスを持っており、 14本という論文の採択数にもそれが現れています。
多くの驚くほどのブレークスルーとも言える研究発表が為された一方で、依然として、
1.初心者にとっても簡便に利用できるスケッチツールと
2.モーションデータのより良い解析と処理の方法
という重要な挑戦課題が残っているとも感じました。
論文発表セッションで興味深かった論文を以下に何点か紹介いたします。
"Seam carving for content-aware image resizing" (MERL, http://www.faculty.idc.ac.il/arik/)
画像を縦方向あるいは横方向にリサイズした際にも、画像中の重要な領域はその大きさを不変に保ったままで、他の部分を圧縮したり、逆に足りない場合にはテクスチャを生成することで、自然でかつ高品質の画像を得ることできるというものです。異なる解像度やアスペクト比を持つ様々なディスプレイ上で画像を表示させたい場合に有効です。これは、従来の画像補間の考え方を超えて、「解像度」の概念に新たな解釈をもたらすものと言えるでしょう。
"Efficient gradient-domain compositing using quadtrees" (Adobe, http://agarwala.org/efficient_gdc/)
複数画像の合成をする際に境界に生じる色調の差を吸収して滑らかに繋ぐようにするために、ポアソン方程式を解くのが近年の一般的な手法です。その合成手法の品質は劇的に向上しているのですが、一方で、処理に要する時間がボトルネックとなり、それが特に大きなスケールでの画像合成への適用を阻んでいました。彼らの手法は、ポアソン方程式問題解決器に対して与える境界条件を四分木として符号化して、継ぎ当てを少しずつ当てるような方法で解くことによって高速化を計ったものです。これはすでに Adobe Photoshop CS3 にも導入されている技術です。
"Computational time-lapse video" (UNC, http://www.cs.unc.edu/~bennett/TimeLapse/index.htm)
数時間にわたる長いビデオ映像から短縮したダイジェスト映像を合成する手法です。与えられた映像を単純に早送りするような形で均一に短縮するのではなく、非均一サンプリング手法によって動きの顕著な部分や重要な部分を抽出し、その部分により多くの再生時間を割り当てることで映像の視認性を向上させます。またバーチャルシャッターによって残像を表示することで物体の動きを強調することも出来ます。
紙面の関係で上記三つしか紹介できませんでしたが、これら以外にも、ラジオシティ法 (CG における光学計算の一手法)、メッシュ処理、モーションキャプチャなど多くの興味深い研究発表がありました。全体を俯瞰できるビデオクリップを SIGGRAPHのサイトにて視聴できる ので、興味のある方は是非ご覧ください。
そのほか、Emerging Technologies のセッションでは、例年どおり、挑戦的な UI プロトタイプの展示が為されていました。
Electronic Theater では、非常に美しく芸術性も極めて高い CG によるアニメーションが紹介されていました。論文の投稿数が例年に比べると少なかった今回の SIGGRAPH ですが、この Electronic Theater に関しては逆の状況で、940の応募があり、上演時間は 2時間にもわたりました。
ビジネス関係の出展がメインの Exhibition は例年どおりの雰囲気でしたが、個人的には株式会社岩根研究所のブースにて出展されていた 360 度の全周囲映像のシステムが興味深かったです。日本各地 10000km 以上を走りながら撮影した全周囲映像のコレクションは圧巻で、会社のウェブページ では彼らの開発したソフトウェアを体験できるようになっています。
例年、北米で開催されてきた SIGGRAPH ですが、次回からは大きな変化があり、 2008年の 12月10日から 13日までシンガポールにて SIGGRAPH ASIA が開催され、その翌年 2009 には日本で開催されることが決まりました。会場も近いため、国内の方は足を運びやすくなるのではないでしょうか?
(Frank Nielsen, FRL 研究員)
This article is available in Japanese.