2008年1月7日から9日に,イタリアの Udine で開催された Ninth International Symposium on Frontiers of Fundamental of Physics (FFP9) に参加してきました.
科学研究を進める上での基盤となる最先端物理学の基礎と計算理論・技術に関して議論する場で,おそらく物理学の分野では現在最も「濃厚」な会合と言えるかと思います.参加者数自体が100名以下と少数であるにも関わらず,今年は3名のノーベル賞受賞者とこれらと同等の科学者が多数集いました.
その3名のノーベル賞受賞者は H.Kroto, A.J.Legett, D.D.Osheroff で,各氏より基調レクチャーがありました.私が個人的に最も印象深く感銘を受けたのは,理論物理と実験物理の双方について深い洞察をお持ちの Anthony J.Legett 教授でした.
20年前にも彼の話を直接聞く機会があったのですが,今もその当時と全く変わらない鋭さをお持ちでした.今年は,実在主義と量子力学について話をされました.彼は,量子論の観測問題を深く追究した数少ない物理学者と言えます.実際には,ミクロな量子世界とマクロな世界の境界を観るべく超伝導リングを用いた実験を計画しています.彼の言うには,これまでのところ量子力学の理論が実験結果をうまく説明できるとしても,超伝導リング中の粒子(例えば電子)の数を増やしていくと,違った現象が見えてくるかもしれない.違った現象とは,準マクロな量子干渉効果のようなもの,例えば「シュレーディンガーの猫」的な現象が見えてくるかもしれないとのことです.いずれにせよ,彼の計画している実験は,量子論に新たな洞察を加えることになるでしょう.ちなみに別のノーベル賞受賞学者あるG 't Hooft 博士も、昨年のこの会議で量子力学に対する疑問を同様に主題とした講演を行っており、すぐれた物理学者がこの問題に正面から取り組んでいることは,意義深いと思われました.
私自身は,昨年から開始した時間に関する研究について発表してきました.光栄なことに,20程度しか用意されていない full presentation の機会を与えられ,反響も素晴らしいものでした.私自身の研究が Wheeler Feynman による電子放出・吸収の理論のアイデアと関係があるかもしれないと述べたところ,参加者の一人が彼自身はDirac の古典的な電子理論からヒントを得たと声をかけてくれました.帰国して調べてみたところ,実際に Dirac が将来の状態を「予測」するような電子についての理論を展開していることを知りました.Dirac の研究と私の進めている研究とが実際にどのように関係するのかについてはもっと調査が必要ですが,こうした偉人が同じような問題に取り組んでいたということを知って大変励みになりました.
次回の会合は2009年.サウジアラビアのリヤドで開催される予定です.
(FRL研究員 大平 徹)
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