Tokyo Research
ピアノアカデミー
第二期生 修了コンサート
芸術教育と身体教育を融合させ、優れたジュニアピアニストを育てることを目的に、ソニーコンピュータサイエンス研究所の古屋晋一シニアリサーチャーが研究活動の一環として行っているミュージック・エクセレンス・プロジェクト。そのピアノアカデミー第二期修了生たちと、ミュージカル・ディレクターのディーナ・ヨッフェ先生、アシスタント講師たちによる演奏会が、11月30日、王子ホールで行われました。第一期修了後は、新型コロナウイルス蔓延の影響によりヨッフェ先生を迎えてのコンサートを行うことができなかったところ、ようやく、先生を舞台にお迎えしての開催です。
冒頭、マイクをとった古屋さんは、「これは、文化を継承するということを大切にしているプロジェクトであり、今日は3世代のピアニストたちが一堂に会す貴重な機会です。この日のステージでも演奏の姿勢やタッチは計測され、今後に生かしていくので、この公演自体が教育の一環ということになります。これから演奏するのは、みんな私の好きなアーティストたち。どうぞお楽しみください」と話し、ジュニアピアニストたちへの敬意とともに、コンサートの幕開けを宣言しました。
第1部は、ピアノアカデミー第二期生による演奏。10代の若いピアニストたちがステージに立ち、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンから、リスト、ショパン、メンデルスゾーン、そしてスクリャービンやプロコフィエフと、時代も国も異なるさまざまなレパートリーを披露しました。
トップで登場したのは、成田寛太郎さん。笑顔で舞台に現れ、ハイドンのピアノソナタ第50番ニ長調Hob.XVI:37Op.30-3はハキハキと語るようなタッチで、プロコフィエフ「束の間の幻影」第7曲は滑らかな音色で表情豊かに演奏。小学6年生の最年少が、堂々とした音楽で冒頭を飾ります。
続く山内理桜菜さんは、ベートーヴェンの「ピアノソナタ第15番ニ長調Op.28「田園」第1楽章。あたたかく、おだやかな起伏を持つ自然な音楽を聴かせました。


木本侑希さんは、ベートーヴェンのピアノソナタ第26番「告別」第2、3楽章。音楽に深く入り込むように演奏を始め、堂々としたタッチで音楽を展開させました。
鈴木凛さんはスクリャービンのピアノソナタ第5番Op.53。やわらかい音からパワーのある音まで、多彩な音色を駆使し、のびのびとスクリャービンの世界を描きあげます。
小山七世さんは、モーツァルトのピアノソナタ第9番K.311第1、3楽章。はつらつとした音を鳴らしながら、自分の呼吸で生き生きとしたモーツァルトの音楽を歌いました。



休憩をはさんで登場した大滝知椰さんは、リスト=グノーの歌劇「ファウスト」のワルツを演奏。冒頭から輝かしい音で聴き手の耳を惹きつけ、さまざまな場面とドラマを再現します。
山下優里奈さんはリストの超絶技巧練習曲より第5番「鬼火」と第12番「雪あらし」。高い技巧の求められる二つの楽曲で、流れを大切に、音楽の世界に入りこんだ演奏を聴かせました。
そして最後の奏者となった山崎夢叶さんは、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」を演奏。滑らかなタッチと軽やかなタッチを自在に組み合わせながら、堂々としたドラマティックな音楽で受講生の部のラストを飾りました。 今回コンサートに出演した8名の修了生それぞれが、個性を伸ばす指導を通じてアカデミーで学んだことの成果を生かし、自分の表現による音楽を届けてくれました。



再び休憩をはさみ、第2部で行われたのは、ディーナ・ヨッフェ先生とアシスタント講師たちの共演。
ヨッフェ先生と松下寛子さんが連弾で演奏したのは、ハイドンのディヴェルティメントへ長調「先生と生徒」より第1楽章。互いに言葉を掛け合い、微笑ましい対話を繰り広げるような演奏は、相手の音を聴き反応して、その場で生み出す音楽のお手本のよう。同じフレーズも2度と同じように演奏しないヨッフェ先生の表現は、とくに印象に残りました。
続けてヨッフェ先生と吉岡由衣さんが、2台ピアノで、サン=サーンスの「死の舞踏」を演奏。両者が交互にミステリアスな音を打ち鳴らし、さまざまな情景がめくるめく現れるような、ダイナミックな演奏を聴かせてくれました。
プログラムの最後は、ラフマニノフの組曲第2番。ヨッフェ先生がセカンドピアノの側に座り、3人のアシスタント講師たちとペアを組み替えながら、2台ピアノによる演奏を繰り広げます。
ドラマティックで壮大なスケールの「序曲」、二人の華やかな音が混ざり合う「ワルツ」は尾崎有飛さんと演奏。甘い音楽の中に輝く音が響いた「ロマンス」は鯛中卓也さんと、時折両者から目の覚めるような表現が聴かれた「タランテラ」は吉武優さんと演奏されました。無理のない自然なタッチで、ときにパワフルな音を、ときに柔軟な音を響かせるヨッフェ先生に、講師のみなさんも多彩な音色で呼応し、それぞれの小品が求める世界を描きあげました。



演奏会を終えて、ヨッフェ先生はこう話しました。
「音楽で十分に語ったので、今、さらに何かを語ることはとても難しいですね。でも、私はこのプロジェクトに参加できてとても嬉しく思います。なぜならすべての音楽家にとって、音楽的、身体的、心理的な要素を集約して学ぶことはとても大切なことだと思うからです。今日は、2年間の集大成を見ていただけたのではないでしょうか」
この演奏会は受講生たちにとって、プロのピアニストになれば避けて通ることのできない、たくさんの聴衆を前に弾くという心境やコンサートホールの響きを体験する、絶好の機会。加えて、普段さまざまなアドバイスをくれるヨッフェ先生やアシスタント講師たちが、実際、同じステージでどのように自分の音や共演者の音を聴き、その場で音楽を生み出していくのか、またホールの響きの中でどんなふうにタッチをコントロールしているのかを目の当たりにする、特別な経験となったことでしょう。

(記事:高坂 はるか、撮影:各務 あゆみ)