2022年現在、ソニーCSLは、東京・京都・パリ・ローマを活動拠点に、5つのリサーチでサステナビリティ、都市計画、エネルギーなどの社会課題を扱うプラネタリー・アジェンダ、人間の能力拡張(Human Augmentation)、そしてAIやデータ解析を基盤として現実世界のシステムやプロセスをインテリジェント化したり、創造性・芸術性を高める研究に取り組んでいます。

所長メッセージ

研究をすることは、未来を切り開いていくことです。そしてその未来は、各々の研究者のイマジネーションの中に存在しています。ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、並外れたイマジネーションを有する研究者をサポートしていくことで、想像を超える未来を創ることに貢献していく研究所です。我々人類は、驚くべき潜在能力と大きな多様性を有しており、その創造性、知的能力、身体能力などを最大限まで引き出し、テクノロジーの活用で拡張していくことは、文明のあり方すら転換し、人類の可能性にチャレンジしていくことであると考えます。テクノロジーを自己の外延として拡張した人類は、それを進化の次のステップと考えるならば、今までとは質的に異なる飛躍を遂げる可能性があります。

このような可能性がある反面、我々の社会の現実は、貧困、高齢化、食料、資源、医療・健康などの各領域で極めて難しい問題に直面しています。さらに、人類文明は、不可逆的気候遷移や生物学的多様性の喪失などの自然環境の大きな変動の原因ともなっています。これらの問題は、複雑かつ多様であり、相互に連関し、我々に極めて過酷な現実を突きつけるものであるとともに、人類文明の枠組みをも超えた惑星規模の重要課題(Planetary Agenda)であります。その解決には、領域を超えた全く新しい発想、文明の転換への意思と卓越した実行力が必要となるでしょう。

ソニーCSLは、その設立の理念として「人類の未来のための研究」を行うと宣言して発足しましたが、今日、その理念をさらに推し進め、「人類とこの惑星の未来のための研究」を行うことがミッションであると考えるに至りました。

我々は、2008年当研究所の設立 20周年の機会に、従来の閉鎖系を対象としたアプローチから、開放系を対象としたサイエンスのアプローチとして「オープンシステムサイエンス」を提唱しました。地球環境やグローバル社会システムなどは複雑な相互作用によって成り立ち、その境目が事実上定義できないシステムがオープンシステムの典型例です。我々が創造的な発想を得るときには、限られた知識のネットワークに閉じていません。さらに、テクノロジーを自らの外延化した人類は、自然はもとより社会システムとも接続したオープンシステムとなります。オープンシステムの研究は、その複雑性、開放性、唯一性から、再現不可能かつ極めて重要な現象の理解とデザインにチャレンジする研究とも言えます。このような研究では、実証科学としてのサイエンスと本来の意味でのアート(art)、つまりアルス(ars)が連動する必要があります。

そして、このようなシステムの性質に起因する問題を解決しようとするなら、広範な領域の知識を統合すると同時に、学術的な研究を超えて実際に行動し、現場へ飛び込み、場合によっては、自らがシステムの変革に関与し続けながら研究を行う必要すらあると考えます。

このような考えから、我々は「越境し、行動する」(Act Beyond Borders) という行動原理を掲げました。国や研究分野、さらには研究なのか事業なのかという境界を超越し、問題の解決のため、新たな可能性のために行動し、世の中に貢献することが我々のなすべきことだとの思いです。そして、その基点は、研究に取り組む各々の研究者のイマジネーションとオブセッションです。これはある意味で、各々の研究者が自らのイマジネーションの限界に挑むことでもあります。我々が思い描く未来の姿をどれだけ具現化できるかが問われています。未来で起きること、実現すべきことの極限をできるだけ具体的かつ詳細に想像し、そしてそれを実際に実現させる能力が問われるのです。この未来のイメージこそが、今なすべきことの方向を決めます。

ソニーCSL では、このようなイマジネーションを源泉に、精密に思い描かれた未来を具現化するプロセスをサポートします。我々の研究成果は、いわゆる学問領域の創出や学術的に大きな貢献という形で世の中に還元されることもありますが、しっかりと世の中に還元するには、具体的な行動へと展開する必要があるものも多々あります。その中には、ソニーグループの事業を通じて還元されるもの、志を一にする国内外の企業や公益事業体・政府機関を通じて具現化されるもの、さらには、我々自身が直接事業化を担うものなど各々の研究者の意思とテーマの性質に応じた多様な方法があります。

ソニーCSLは、小さな組織であり、小さな組織であり続けます。この組織が、越境し、行動して世の中を変えていくには、個人の力を最大限に解き放つこと、そして、影響力を最大化して世界に投射し続け、志を同じくする仲間たちを作り、大きなトランスフォーメーションを成し遂げることだと考えています。これは、Global Influence Projectionともいえます。ソニーCSLの組織自体も、この理念を実現するために、変化し続けます。

人類とこの惑星の未来のためのプラットフォーム、それがソニーCSLです。

北野 宏明
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
代表取締役社長
2022年2月吉日

CSOメッセージ

私たちは、先端技術と人間の可能性の交差点に位置する研究機関として、社会の進化を形作る立場にあります。

変化し続ける世界では、複雑な問題に対する解決策の必要性がかつてないほど高まっています。私たちの使命は、コンピュータサイエンスを核とした技術の大きな可能性を活かし、人類が直面するさまざまな課題を解決することです。私たちは、技術の急速な進歩から生じる期待と不安の二面性を理解した上で、人間性を定義する永続的な価値を探求し、人類をゆたかな未来へと導くことを約束します。

ソニーコンピュータサイエンス研究所は、「越境して行動する」という行動原理を掲げ、狭い学問的成果を超えて、より広く社会の発展に寄与してきました。私たちは、産業、教育、健康、創造性、文化など社会の多様な領域において、望ましい解決策を探り、実行することで、人類社会の未来に貢献することを目指します。たとえ現在において型破り、常識外れ、妄想、と見えることでも、未来において普遍的となると確信できるものを恐れずに実現します。

同時に、人間の持つ永遠の価値、文化や芸術の研究に積極的に取り組みます。目先の技術変動に左右されない、人間や社会の本質的かつ永続的な価値を尊重し、探求していきます。技術の発展が、人類のゆたかさを損なうことなく、むしろ高めることに貢献するためには、革新性と永遠性の高度な融合が重要であると信じているからです。

東京、パリ、京都、ローマの4都市にある研究拠点は、この、革新性と永遠性を融合させるという私たちの研究理念を象徴しています。これら「永遠の都」(Città Eterna)を拠点とすることは、多様な立場、創造性、見識、伝統、文化を尊重し、先端技術と融合させることが重要であるという私たちの信念の表明です。

私たちはさらに、物理的な制約を超えた革新的な方法を実践する研究拠点を設立します。私たちは、情報科学技術の最前線に立ち続け、研究手法や研究所運営そのものも研究や実践の対象として、科学とその先の限界を押し広げます。

ソニーコンピュータサイエンス研究所は、研究機関としての重要性と社会責任を十分に認識しながら、共にこの旅に邁進します。私たちは、人間の永遠の価値をさらに高め、人類社会の進化を促進するために、研究活動を進めてまいります。

暦本 純一
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
Chief Science Officer / Fellow
2023年7月吉日

ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、新たな研究領域や研究パラダイム、新技術や新事業を創出し、人類・社会に貢献することを目的として1988年に東京で設立されました。現在は人類のみならず惑星規模の課題を活動のスコープに入れ、「人類とこの惑星の未来のための研究」をミッションに掲げています。研究者の自由意思を尊重し、創造性と創意工夫を駆使した研究活動を通じて、より良い未来を創り出すことに注力しています。

Transboundary Research

東京、パリと始まり、京都、ローマへと展開したソニーCSLは、より自由かつ本質的な研究活動の実現に向けて、自律分散型の組織へと多様性を増してきました。越境し行動し続ける中で拡張された活動領域は、今やグローバルな影響の投射まで視野に入れつつ、各地で研究と社会実装の両輪を駆動しています。コロナ禍に際しても、我々は分散型組織としての実験を推し進め、「人類とこの惑星の未来のための研究」を支える母船としての役割を突き詰めてきました。

このような本質的な役割をより広範かつ先鋭的な形で追求するには、もはや特定の地域や文化に即して根を張るのではなく、多様な価値観の対立を超えて一望する天からの視点に向かって飛び立つ時が来たと考えます。これまで人類が辿ってきた長く困難な旅程を継承しつつ、そこに全く新たな1ページを刻まんとする有為な志を支援する母船として、我々はTransboundary Research (トランスバウンダリーリサーチ)を離陸させます。それは嵐の中でも行く先を指し示す星々となる探究者の集まりであり、多くの神話の崩壊や文明の分岐点を超えて進む人類の新たな旅路の予兆ともなるでしょう。

未曾有の大変化に曝されている現代において、我々は安住の地ではなく移動によるセレンディピティを希求します。
あなたの研究が、生まれた場所や時代を超えて、どこまで雄弁に新たな真実を志向し続けることができるか。
辺境の地より語る知的なディアスポラや、未開のフィールドに飛び込むノマド研究者など、自ら世界と対峙し、想像の限界を超えゆく好奇心をもって未来を創り出さんとする意志によって、我々は未来と繋がってゆきます。

(2023年6月 スマトラのジャングルにて)

トランスバウンダリーリサーチは、超領域型の研究組織として、分野を超えた先鋭的な研究を行います。各研究員が問題の現場に肉薄する分散型のオペレーションにより、多様な価値観を統合した視点でより本質的な研究領域を開拓します。

Tokyo Research

目まぐるしい進歩を遂げるテクノロジーとサイエンスは、私たち人間ができることの境界を拡張し続けています。そのような現実と共生しながら、個人と社会が感動を享受し続けるためには、何が必要でしょうか?人類史に渡り普遍の感動体験の一つは、「生み出すこと」による能動的かつ根源的な喜びです。産業、文化、芸術、医療、エンタテイメント、スポーツ、学問、教育、ひいては日常生活の営みに至るまで、あらゆるクリエイションに伴う感動を個人と社会が享受できる未来の姿を妄想することが、研究活動の源泉となります。このような妄想を具現化するためには、感動の基底に資する求心力を持った研究が不可欠ですが、それだけでは十分とは言えません。

様々な土地から人が集まる性質を持った東京という地において、信念に裏付けられた明確なビジョンとその実現のための駆動力を備えた研究が核となり、多様な専門性やバックグラウンドを持った人々が互いにシナジー(相乗効果)を生み出しながら、未知の感動体験に溢れた未来を共創するうねりを生み出すことが、東京リサーチの使命です。こうしたうねりは、人類に宿るクリエイターの遺伝子と共鳴し、時間と空間を超えて紡がれていきます。

東京リサーチでは、多様な専門性やバックグラウンドを持った人々が互いにシナジー(相乗効果)を生み出しながら、未知の感動体験に溢れた未来を共創するうねりを創出することを目指します。

Kyoto Research

情報技術により、人間の行為を自動化し効率化する技術がかつてないレベルで急速に進んでいます。我々が目前に迎えているのは、産業革命に匹敵する規模の社会的変革の波です。研究組織としてその進展をリードする基礎技術開発を行うと共に、単に効率化や自動化だけにとどまらない、人間が感じることのできる充足感、永続感、伝統の継承と発展、そして技術進歩と人類の幸福感の両立、を真剣に考えるべき時期が到来していると考えます。これを「ゆたかさ」と呼ぶことにします。ゆたかさとは、単なる物質的、金銭的な豊かさを超え、技術的進歩と人類の幸福感を結びつける力を持つ、時間を超越した原理です。これは我々の研究活動の永続的な原動力となります。

私たちの研究所が京都に設置された理由も、まさにこの「ゆたかさ」の原理を具現化するためです。京都は、ゆたかな文化や伝統工芸を継承している世界的な文化都市であると同時に、最先端の技術開発や新しい文化の発信拠点としてのダイナミズムを併せ持っています。私たちは京都の伝統と革新の融合から得るユニークな視点と、その地域が持つゆたかな文化的資源と響応し、新たな技術開発とその適用に取り組むことで、先端技術と伝統的な価値観が調和し、人間性と進歩が共存する未来を模索しています。これは、新しい技術が人類の幸福を高める手段として、そしてその過程で伝統や文化が失われることなく保護され、さらに発展する可能性を追求するという、我々の研究の核心的な部分です。この京都という地で、これらの要素が結びつき、「ゆたかさ」が具現化されることをめざします。

私たちの使命は、技術の進歩と人類の幸福が一致する「ゆたかさ」を見つけ出し、それを世界に広めることです。

京都リサーチでは、「ゆたかさ」をテーマとして、心のゆとりや公共への配慮など、様々な価値を探求しています。古きと新しきが混在する街、京都において、人や社会にとっての「ゆたかさ」の意味を問い直し、万人に恩恵をもたらす新たな技術開発の道筋を模索する研究を進めています。

Sony Computer Science Laboratories - Kyoto WEB SITE

Paris Research

私たちはいま、環境問題や社会的課題に対処しなくてはならない極めて重要な時代を生きています。パリリサーチは、持続可能で平和で民主的な社会を実現するための研究開発に全力で取り組んでいます。

気候変動と生物多様性の喪失は、私たちが取り組まねばならない二つの重要な課題です。政府や企業は、循環型社会への転換を優先課題として掲げていますが、その明確なビジョンは見えてきません。私たちが目指しているのは、長期的な視点に立って社会の発展の可能性を見つめ、人と自然、そしてテクノロジーのあいだに新しい絆を育んでいくことです。

ソーシャル・ネットワークは、グローバルなニュースや情報を瞬時に拡散し、共有する手段として現れました。もちろんこの画期的なテクノロジーによる利点はありますが、一方で、説明責任を伴わない情報操作を可能にしてしまっています。私たちは、オンライン・ディスカッションのダイナミクスを研究し、ソーシャル・ネットワークが、安定した社会のための信頼できるツールとなるように、その弱点を克服する方法を模索し続けます。

AI、特に基盤モデルを用いたシステムは、我々の生活の大半を担う新しいOSとなるでしょう。私たちは、これらのシステムが創造性やコミュニケーションのためのツールとして人々を支援できるよう、新しく斬新なAIの活用方法を探索しています。また同時に、これらのシステムが事実データに基づいた、倫理的に認められる、信頼性の高いものであることを保証できるよう、研究を続けていきます。

斬新で刺激的な想像力をもって、人と地球のウェルビーイングを追求していくことが、パリリサーチの究極のテーマなのです。

パリリサーチでは人と地球のウェルビーイングを追求しています。音楽の理解と創作、言語とコミュニケーションシステム、持続可能性、イノベーションダイナミクスと創造性といった多彩な分野に取り組んでいます。斬新で刺激的な創造力をもって、科学的進歩を支援することを目指します。

Sony Computer Science Laboratories - Paris WEB SITE

Rome Research

「創造力とは、遊び心を持った知性である」 – アルベルト・アインシュタイン

私たちの環境と社会はいま、気候変動、グローバリゼーション、デジタル化によって大きな構造変革を求められています。COVID-19のパンデミックによって、私たちはライフスタイルの抜本的な見直しを早急に行わざるを得なくなりました。社会と都市の構造をはじめ、都市と地方との関係、生産と生態系への負荷限界、個人のウェルビーイングやインクルーシブな社会といった課題に真摯に向き合わなければならなくなったのです。惑星規模の重要課題の解決への道筋は未だ見えていませんが、急激な世界の変化に対応するためには、生態系とのバランスを保ちながら、人間の社会を安全かつ豊かに維持していくための新しい技術を創造し、新たな解決策を見出すことのできる人材がますます求められています。

私たちが数多くの複雑な課題に直面している中、社会を再設計する上で最も効果的なツールのひとつが創造性です。しかし、果たして創造性とは向上させられるものなのでしょうか?そんな疑問が当然のように湧いてきます。創造性を育むための条件を整え、探索領域の拡張をより効率的に形成し、ナビゲートすることができるとしたらどうでしょうか?ローマリサーチでは、人間性の向上、そして現代社会の課題に対する持続可能な解決策を探求するために、人と機械が安全に協力し合うという独自のアプローチを推進しています。これを端的に表しているのが「創造性の拡張(Augmented Creativity)」という言葉です。現代における最も複雑な課題に対処するための優れたツールとして創造性を掲げ、自然知能と人工知能の新たな相乗効果を集約させることは、ローマに研究拠点を開設した際の根底を成す主なアイデアであり、官民が連携したユニークなエコシステムが構築されたいま、科学、芸術、そして一般市民が参画する研究を推進し、イノベーションを促進し、「現状を修復」しながら、すべての人々に具体的な未来を実現していくという大望を抱いています。

ローマリサーチでは、人間の可能性の向上、現代社会の課題に対する持続可能な解決策をテーマに、人と機械が安全に協力し合うアプローチから研究を進めています。卓越性と創造性の豊かな宝庫であるイタリアにおいて、情報・サステナビリティ・人工知能とアートを融合させながら創造性あふれる研究を推進します。

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