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学生研究員インタビュー

ソニーコンピュータサイエンス研究所 - 京都  研究員インタビュー 番外編


ソニーCSL – 京都では、12名の大学生・大学院生のリサーチアシスタント(RA)・学生研究員*が研究に参加しています(2024年6月時点)。今回は、奈良先端科学技術大学院大学 博士後期課程に在籍している足立旭さんに学生研究員としての活動について訊きました。

*学生の方は通常、RAとして、各リサーチャーの研究テーマを推進することを目的とした研究補助として参画いただいていますが、独創的なアイデアを持つ大学院生で、本人が希望する場合、一定の選考を経て、作業環境や機材を会社が提供するような形で、メンターの元、自身で研究テーマを定めて推進する学生研究員として参画いただく場合もあります。

京都ならではの研究テーマを探る

ー学生研究員として今年で4年目ですが、これまでおこなってきた研究について教えてください

最初はAIを使って和柄の画像を生成することからスタートしました。1年くらい画像生成の研究(https://www.sonycsl.co.jp/kyoto/projects/wagara/)をおこなった後、昨年はテキストから画像を生成するText-to-Imageを使い有職文様の生成に取り組んでいました。現在は、西陣織の織り機に柄のデータを読み込ませるために必要な画像処理を効率化するAI技術の開発を手がけています。

ーなぜAIで和柄を生成しようと考えたのですか?

もともと画像を扱った研究に興味があり、研究員の方々と相談して和柄の生成をやってみることになりました。ちょうどソニーCSL – 京都が設立したばかりの頃で、京都で研究するからには伝統工芸や着物などをAIと組み合わせられると面白い、伝統的な文化や工芸に貢献できるような研究をしたいという要望もありました。

和柄模様の認識及び生成プロジェクト

ーそこから西陣織のフクオカ機業さんと組んで実際に着物を制作しましたが、そのプロセスは順調でしたか?

最初はなかなか進みませんでした。生成してもうまく和柄がでてこなくて、アフリカの伝統紋様みたいな柄が出てきてしまったり。そもそも和柄とは何かもよくわからず、正直、方向性を見失っていた時期もありました。帯や着物など製品によっても使われている柄はさまざまで、そもそも和柄の定義も難しかったんです。リサーチを重ねるなかで、着物を作っている方や様々な図案資料を収集されている方などに話をお聞きし、和柄の中でも平安時代の朝廷や公家の儀式などで使われていた格調高い有職文様の生成をしてみようとなりました。

生成AIで作成した有職文様を西陣織で織った反物

チームでおこなう研究の魅力

ーメンターであるラナ・シナパヤ研究員とはどのように研究を進めていますか?

とても自由にやらせてもらっています。最初の和柄生成はひとりでやるなかで研究員の方からフィードバックをもらうような形で進めることが多かったのですが、最近のテーマでもある織り機にデザインを読み込ませるための画像処理効率化については、手法を考えるところからラナ研究員と一緒にやっています。主にSlackでやりとりをしていますが、たまに対面でミーティングをしたりもします。学会発表の資料も英語の表記などを含めしっかり添削をしてもらっています。フランクで話しやすい雰囲気です。

ー海外の学会での発表もおこなったとか。

2022年のSIGGRAPH(バンクーバー)と2023年のSIGGRAPH ASIA(シドニー)でポスター発表(https://dl.acm.org/doi/10.1145/3532719.3543221)をおこないました。かなりニッチな内容ではありますが、特に日本の文化に興味がある方々にはいい反応をもらいました。自分が所属している大学の研究室では研究をじっくり組み上げてから発表することが多いのですが、ソニーCSL – 京都では何か成果を出したらすぐに学会に出すことも良しとされている印象です。そのフットワークの軽さはソニーCSL – 京都の特徴だと思います。参加させていただいたSIGGRAPHとSIGGRAPH ASIAは展示なども多く、お祭りのようなイベント感があって楽しかったです。

シドニーで開催されたSIGGRAPH ASIA 2023でのポスター発表の様子

ー大学ではどんな研究をしているのですか?

バイオインフォマティクスやケモインフォマティクスといった生物学や化合物のデータを扱うための機械学習モデルについて研究しています。根幹である機械学習でモデルをつくるという点では同じですが、応用先はここでやっていることとは全く異なります。大学では自然科学系の分野でのデータサイエンス研究を行っていますが、ここでは文化やエンターテインメント寄りの素材を扱えます。大学ではなかなかできないことをソニーCSL – 京都でやっています。

ー研究をしていて楽しいと感じることはありますか?

今のプロジェクトは関わっている人が多いので、みんなで作り上げることが楽しいです。大学の所属研究室ではひとりで研究を進めることが多いので、ある程度同じ熱量を持った人たちとチームとして目標に向かっていくという経験はなかなかありません。もちろんひとりで集中して考えたり試行錯誤するのも好きなんですが、ここではチームでの作業を楽しんでいます。

大学とRAの違い

ー何をきっかけにRAに応募したのですか?

修士1年の頃、夏季インターンの募集を探していた時にソニーCSL – 京都のホームページの募集を見てメールを送りました。ニュースで京都に研究室ができるというのを見て覚えていたんです。

ー大学の研究とRAの両立はどのようにしていますか?

日々難しいと感じています。論文も短ければすぐに書けますが、フルペーパーは大変です。時間が限られているので、片方に集中するとどうしても片方がおざなりになってしまうんです。細切れになってしまうこともあり、仕事した気にはなるけれどあまり進んでいないなと感じることもあります。みんながどうやっているか知りたいです(笑)。

ー研究員とのコミュニケーションはどうですか?

みなさん、とても話しやすい方々です。ホームページの写真を見ると全員が黒い服を着ていて一見怖そうですが(笑)。実際は気軽にコミュニケーションができたり、一緒にランチを食べたりできるフランクな雰囲気でした。

ー他の企業でのインターン経験もあるそうですが、ソニーCSL – 京都のRAの特徴はどんなところにあると思いますか?

全く別の研究をしている人たちが集まっている点が独特ですよね。また、多くの企業の長期インターンは、フルタイムで数週間から数ヶ月集中して関わる形式ですが、ここでは週1程度の出勤で長く関わることができます。時間の融通も効きやすいし、長期スパンの研究にも携わることができるのが魅力だと思います。

ー卒業後の進路は?

企業の研究職に就職する予定です。アカデミアで研究を続けるかも迷ってはいたのですが、自身のライフプランやキャリアプランを考えた結果、自分には企業で研究を行う方があっていると感じました。興味のある分野で研究に打ち込める環境が整っている企業を探しました。

ーRAをやっていて就職活動に役立ったことはありますか?

応募書類にインターン歴を書く欄がない企業もあったので役立っていないかもしれません(笑)。でも他の企業と共同研究をしたり、様々な役職の方のお話を聞けたりしたことは大変勉強になりました。また、研究員と一緒に新聞やテレビなどの取材を受ける機会にも恵まれ(ソニーが紡ぐ「デジタル西陣織」 京都、伝統と革新の現場『日本経済新聞』2023年8月30日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF257Z50V20C23A8000000/)、研究から派生したさまざまなことを経験できたのは貴重な経験だったと思います。

ーこれからRAに応募しようと考えている学生へのアドバイスはありますか?

基本的には指導研究員と組んで研究テーマを決めていきますが、自分がやりたいと考えたテーマを採用してもらえることもあります。そのような中で論文を執筆・投稿し、採択されれば、海外の学会にも行かせてもらえるチャンスがあるので、主体性をかなり尊重されます。やりたいことが明確で自分から動ける人は向いていると思います。また大学以外でしっかり研究ができる居場所が欲しい人もいいかもしれません。モチベーションやスキルが高い人が多いので少し気後れしてしまうこともありますが、関西でこういったインターンができる企業は少ないのでぜひ機会があればおすすめしたいです。

企画:柏 康二郎、文:服部 円