協生農法をはじめとする拡張生態系に関連した知見や支援技術をもとに事業を推進する新会社、株式会社SynecOが2021年4月1日に設立されました(プレスリリース)。
新会社発足についての思いを、代表取締役社長でソニーCSLシニアリサーチャーの舩橋さんにお話しをお伺いしました。
*「協生農法」は(株)桜自然塾の商標または登録商標です
―――舩橋さんが取り組んでいる「協生農法」とはどういうものでしょうか。
(舩橋)協生農法TM (SynecocultureTM) [1] とは、地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法で、(株)桜自然塾の大塚隆氏により原型の創案がなされ、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)で科学的な理論化と実証実験を行いました。
植物の自発的な成長を促すため、農地を耕さない「無耕起」、肥料を与えない「無施肥」、農薬を使わない「無農薬」が基本になっています。多種の種と苗を導入して植生を多様化し、雑草も状況に応じて土壌形成に活用し、作物を食べることもある鳥や虫も排除せずに、微量元素供給や動物相の安定化のために積極的に呼び寄せます。多種多様な植物を混生密生させつつ、日照条件などに応じて適した配置を行い、それぞれの植物が備えている特性が発揮できる状態を人間が関わりながら作ることがポイントです。実際に協生農法の農園には、多くの動植物や微生物が生息する複雑で豊かな生物多様性の世界が広がっています。このように人間がうまく関わることで生物多様性や物質循環などの機能が増進される生態系を「拡張生態系」と呼んでおり、協生農法は野菜や果樹を中心とした食料生産を志向した雛形です。協生農法プロジェクトは2010年にソニーCSLにて始動後、2015年からはアフリカのサハラ砂漠の南側のサヘル地域にあるブルキナファソにおいて、現地の人々によって実証実験が始まり、隣接するマリやトーゴにおける国際・国家プロジェクトとして発展し継続しています。また、2019年からは庭やプランターでも拡張生態系を体験的に学習できる入門キットも公開、社会普及を続けています。
[1] 協生農法®は、(株)桜自然塾の登録商標です。SynecocultureTMは、ソニーグループ株式会社の商標です。
ソニーCSLシニアリサーチャー
舩橋真俊さん
―――今まで10年間活動されてきたと伺っています。その中で嬉しかったこと、辛かったこと、印象的なことなどをお聞かせください。
(舩橋)いずれも思い出深いですね。アフリカで関わった地域でテロの被害が出ることがあり、ニュースで見慣れた光景が出てくると、そこに住んでいる人々の顔が思い浮かばれ辛いですね。また注目されていないうちは本当に真面目な研究者とお話しする機会にも恵まれましたが、成功すればするほど経済的に利用しようとする人も出てくるので、人間のエゴというか、そういうものが露呈してくると悲しい気持ちになることもあります。
楽しいことでいうと、何でも楽しいですね。ほとんど一人で始めたことにいろいろな人々が関わってくれるのを見ると、感慨深いものがあります。当初はプレゼンしても反応が芳しくなかったのに、今では議論が白熱した怒鳴りあいの会議になったりして、人々の意識が変わってきているのがとても嬉しいです。
ブルキナファソ、現地コラボレータ―の施設内に作業場所をセットアップ (2017)
ブルキナファソの農園で現地の人々と交流(2017)
ブルキナファソの農園学校の学生たちと(2018)
アフリカで5回の国際シンポジウムを開催 (2015年-2019年)
アメリカ・New York シンポジウムでの講演の様子(2014)https://www.sonycsl.co.jp/event/524/ (左)
フランス・Cerisy城にて講演の際、現代思想を牽引した著名な哲学者が議論した橋の上で (2017)(右)
―――2018年に発足した一般社団法人シネコカルチャーから3年後、2021年に株式会社SynecOが発足しました。一般社団法人シネコカルチャーは、研究成果の社会還元と普及活動を目的にしていますが、株式会社SynecOはどういう目的で設立されたものですか?
(舩橋)社団は非営利組織なので、中立性が要求される認証やオープンソース著作物の管理など、非営利組織が管理すべきアジェンダを行っていきます。株式会社SynecOは営利組織なので、協生農法や拡張生態系の社会実装に関連する様々な企業活動や公共事業と連携し、経済のリバレッジを効かせて社会の持続可能性に対して大きなインパクトを実現するためにある組織です。
研究成果をもとに株式会社を作る構想は以前からあり、ちょうどSony Innovation Fund : Environment [2]から投資を受ける打診があり、半年ほどの検討期間を経てまとまりました。
[2] Sony Innovation Fund : Environment(SIF/E)は、気候変動、資源、有害化学物質、生物多様性などの地球環境問題を解決する新技術を市場にもたらすアーリーステージの企業に投資することを目的に2020年9月に創設されました。
―――新会社が設立されたことにより、プロジェクトのフェーズが変わったように感じますか?
(舩橋)フェーズが変わるというよりは、複数のフェーズが重層的になってきているように感じています。物質資源に極力依存しない農法をオープンソースで作って広げるというのが当初の目的だったのですが、その方向性は変わらず研究活動の基盤として継続しています。そこに、もう少し具体的な話としてシネコポータル(拡張生態系入門キット)[3]のような社団の活動や、株式会社SynecOの話が並行して乗ってきています。つまりレイヤーとして異なる複数のフェーズが重層的に重なってきて、そこに色々なメンバーが入りつつあります。フェーズがABC…と時間的に移り変わっていくのではなくて、最初に始めたAが走りながらその上にBが乗り、その上に新たにCが乗ってきています。Aをやっていくベクトルはコンスタントにあります。ただそれは長期的なものなので、常に成果が出るわけではなく、継続することも重要です。Aだけやっていくよりは、Aの上にBやCが重層的に乗っている方がAもやりやすくなるので、シナジーを考えながらやっています。
[3] シネコポータル(拡張生態系入門キット)は、協生農法の仕組みや拡張生態系が成り立つ原理をわかりやすく理解するために開発している体験型学習キット。ハンドブックが一般公開されており、誰でも実際に植物を混生密生させた生態系を観察できるプランターを作ることができ、ワークショップも開催されている。出来上がったプランターは、生態系の循環や周囲の環境との相互作用を体感するための装置となり、様々な自発的・継続的な学習に展開することができる。詳しくはこちらから: https://www.sonycsl.co.jp/tokyo/12113/
台湾での潜水調査(左)ハワイにて、標高3000mを超える高山植物の調査(右)
慣れ親しんだ海での狩猟採集(左)
不安定な波や風でも自在に乗りこなせるウィンドサーフィン(右)
―――2021年6月1日に株式会社SynecOが稼働し始めますね。最初にやりたいことは何ですか?
(舩橋)なんでしょうね、これから乗る船の進水式みたいなものなので、シャンパンを開けるくらいですかね(笑)。
新会社の住所はソニーグループの本社と同じ場所にしてあるのですが、実は建物としてのオフィスは構えていません。今やりたいなと考えていることは、80フィートのカタマランヨットを調達しそれを物理的な本社にして、地球の上を季節風に乗ってくるくると移動しながら、行く先々で色々なステークホルダーと商談をしながら回遊することです。
―――ウィンドサーフィンがお好きだと伺いました。海からインスピレーションは受けることはありますか?
(舩橋)もともと網元でもあった家に生まれているせいか、海での狩猟採集には親和性があります。初めは生態系を観察したり活用したりする経験値を深めるために行っていた僻地での狩猟採集の移動手段としてヨットを用いたりしていたのですが、ヨットというのはそれなりに大きくクルーも必要なので、どうしても自分で納得がいくような突き詰め方ができなかった。余分なものを削ぎ落としてどんどんミニマムに小さくして行った時に、これ以上分解できない運動単位としてウィンドサーフィンにたどり着きました。海の上では物理的に足元がぐらつくので、踏ん張ろうとしても踏ん張れない中でバランスを取る必要があります。サイエンスや現実のマネージメントでは、「しっかりと地に足を付けて」と言うように認識の地面を安定化する価値観がありますが、実は変化の時にはそれが揺らぐことが多いです。なので、しっかり地に足をつけようとする人ほど、変化の時にはバランスを崩して弱いわけですね。ただ、ウィンドサーフィンではアンバランスであるからこそ荒れた海面や乱気流の中でも速く疾れるように、もともとアンバランスを前提にマネージしていこうという考えもあるわけです。私は海外で生活していたこともあるため、環境や文化や習慣が揺らぐ中での適応力を発揮することが必要だったこともあり、常に前提が揺らぐ環境で仕事をすることが割合得意です。株式会社SynecOも、まさにそのようにアンバランスの中でのスピードや機動性を追求していくというフィロソフィーがあります。
あとは、海面で寝ている状態から突風に乗って一気に立ち上がり走り出すという技術がウィンドサーフィンにあり、それを「ウォータースタート」と呼ぶのですが、私はそれが大好きで。今年株式会社SynecOがスタートできたのも、ウィンドサーフィンでいうウォータースタートのように感じています。
今回パンデミックが来て、元々は100年かかると思っていたプロジェクトへの評価が10年でいきなり来たような勢いを感じます。なので、すごい追い風・突風が吹いて来て、それに対してウォータースタートを切った組織がこの株式会社SynecOだという位置づけです。
もちろんリスクもあって、ウォータースタートは不安定なので、そのまま飛ばされて沈没することもあります。
私もこの前時速35キロくらいで前方に吹き飛ばされ、危うく肩を強打しそうになったこともありました。アンバランスで速い風だけにそういうリスクもあります。ただ、コロナで世界中が疲弊している中で、全体最適への道筋が見えている人が適切なチャンスを掴みに行かないとグローバルに悪影響を蓄積してしまうので、敢えて「火中の栗」というか、「突風の中のウォータースタート」を切ろうと決めました。
―――SynecO株式会社の最後の「O」は大文字ですが、何か意味があるのでしょうか?
(舩橋)色々な意味を込めています。最終的にイメージしたのは、見た目上何もなくゼロだけれども潜在的に無限の可能性がある場という、東洋的な概念としてのOです。Oを禅でいう「中空」と見立て、一見無為に見える存在が全体を機能させる上で重要な構造であるという意味で生物多様性の果たす役割に近いと思ったことにも由来しています。宮本武蔵の五輪書の最終巻にあたる『空之巻』からも、困難な現実の中で知っていることも知らないこともオープンに認識して俯瞰した空の状態から、そこに進むべき正しい道を見出していく生き方として、インスピレーションを受けています。
そこに行きついた経緯をお話ししますと、もともとは一般社団法人シネコカルチャーの活動の中で、農法としてのシネコカルチャーの原理を利用したサブ分野のアイディアが出てきており、例えば林業に相当するシネコ・シルビカルチャーや養蜂を導入するシネコ・アピカルチャー、海洋生態系を丸ごと囲って水産業として展開するシネコ・アクアカルチャー、またシネコカルチャーを実践する農家の方々をシネコ・ファーマーズと呼ぶなど、接頭辞として「シネコXXX」が使われる用法がありました。ですので、会社を立ち上げる時に、会社名としては「シネコXXX」だろうと、最初はたくさん案を出しました。ただ、どれもしっくりこなくて。生態系には多面的な役割が重層的に重なってあるため、会社の意味合いが一つの言葉に限定しきれなく、いずれもかかってきて重なるので、どれか一つを選べないという状況になりました。であれば、「SynecO」と最後が小文字ではなく大文字の「O」にして、そこに全部やりたいことを込められるオープンな構えにしようという風に落ち着きました。
―――SynecOは英語のOでもあり数字の0でもある、ということですね。
(舩橋)はい、まさにそうです。あとは、私は船が好きなので船っぽい名前もいいなと思っていて。「SynecO」と書いて、仲間内では「シネコ丸」と呼んでいます。新会社で航海する予定のヨットも今後購入することがあれば、「シネコ丸」と名付けようと考えています。
SynecO株式会社のロゴ
―――2010年から協生農法の活動をされているとのことですが、ここ10年でSDGsの盛り上がりや若い世代の台頭など、意識の変化はあるように感じますか?
(舩橋)そうですね、ここ10年で確かに意識変化はあったと思いますが、社会体質としてはほとんど変化していないように感じます。コロナで世界的にロックダウンがあっても、二酸化炭素の排出基準が2005年水準に戻っただけで、不要不急の経済活動を停止するという戦争状態並みに強硬な手段をとったにもかかわらず、パリ協定を達成できるような排出削減は起きていません。このままいくと、気候変動も生物多様性もティッピングポイントを超えて、温暖化や生物多様性の全球崩壊が人為的に元に戻せないレベルで加速する悪循環に突入してしまう危険性が高いです。社会経済の状況でいうと、最悪のシナリオでは第二次世界大戦時に起きた破壊や荒廃の規模では済まなくなるほどの打撃を受けることになり、我々が生きている間にそれが起きる可能性が高いと言われています。
今の社会の前提になっている生物多様性に基づく自然資源、それを活用していく上で前提となっている気候システムが不安定化していくと、人間社会が被る被害は人間同士が戦争するレベルでは収まらなくなります。それが起こり始めているのがアフリカのサヘル地域みたいなところで、地球の明日を予言している場所だと私は思っています。
5-10年先を見据えた活動がまずは重要になりますが、破滅的な変化に対処するシナリオとそれを回避するシナリオの両方の間には、大きな振れ幅があり少数の具体的な施策に絞って明確に言うことは難しい。ただ最悪シナリオに陥る場合でも、人類がものすごく賢くなって回避できる場合でも、必ずやらなければいけない必要条件というものがあると思っていて、それが協生農法に代表されるような「人間による生態系の拡張 (human augmentation of ecosystems)」です。
産業革命以来、人間社会はほぼ一方的に資源を収奪し豊かな社会を築いてきましたが、それを支えてきた自然資本の再生産は自然任せであり、それが今どんな科学技術を以ってしても対症療法にしかならず根本のところで立ち行かなくなっています。人間のエッセンシャルな経済活動が、社会的な資本だけでなく自然資本の再生産過程までも構造的に巻き込むような、自然-社会共通資本ベースの社会活動に拡張される必要があります。その際に生物多様性や生態系サービスが自然状態を超えて高まる形で構築され、様々な産業分野とつながり経済活動の前提となる環境を支える生態系を、拡張生態系(augmented ecosystem)と呼んでいます。
拡張生態系が、人類にとって悲惨な末路を辿る地球環境の中で縋る最後の縁になるのか、もしくは人智はやはりすごかったという持続可能な発展を遂げた未来の中で華々しく使われるものになるのかは、私の選択ではなくて他の皆さんの選択なのでそれを見届けるしかないのですが、どちらに転んでも、このプロジェクトとしてはきちんとやるべきことをやるという方向を見据えてやっています。
―――スーパーに並んでいないから知らないだけで、実は食べられる食物はたくさんあるようですね。私たちが食べられるものの選択肢をより広く知ることのメリットはありますか?
(舩橋)選択肢を広げるというのは人間の自由意志にとって本質的なことだと思います。インフォームドコンセントの環境を整備することは重要ですね。明日何を食べられるか分からない状況で、出されたものを無理に食べるというのは人間にとって苦痛で、不幸はそういうところから生まれます。災害におけるリスクヘッジのやり方に、「何だったら命を落としてもいいですか」、「何では絶対に死にたくないですか」という質問を列挙してその答えに応じた優先条件から現状の生活環境を選ぶという考え方があり、選択肢とリスクが十分広く提示されればかなりの部分でロジカルに説明がつけられる問題です。ただ、そういった選択肢を専門家も入れて幅広く明示して、民主的な手続きでインフォームドコンセントを作ることが出来ていない分野が多いです。例えば、特定の災害で死にたくないならそのリスクの高い場所には住まないという選択があり得ますが、そもそも今住んでいる場所が長期的にどのような災害に見舞われる可能性があるかを実際のリスクとして理解せずに住んでいる場合が多い。また公害問題などは、一部の企業利益のために環境として連動している適切なステークホルダー間の合意形成がおざなりになったところから生じる典型的な例です。ESG投資の文脈などでは、社会的にも環境的にも広い視野からの適切な合意形成が、今後ますますメインストリームとして重要になります。
食料生産に関してもそこは全く未開の分野です。食料生産を根本にした、人間が関与して構築していくべき新しい生態系のインフォームドコンセントを何とか形成していくことが、我々の心身だけでなく環境問題や持続可能性に対しても健全な形で自由意志を拡張していく行為だと思っています。結果として良い悪いではなくて、事前に自由意志で選択できなかったというのが人間にとっての最大の不幸として跳ね返ってくるからです。
例えば、電気を使って文明化している生活を捨てて竪穴式住居に住み、そこで狩猟生活に戻ると急に言われても困りますよね。健康で文化的な生活が営めるのか、安全保障は大丈夫なのか、自分がきちんと考えられないままいきなりそういう話が降ってくると嫌で、強要すれば人権侵害に相当する訳です。しかし選ぶべき二つの未来があって、例えば工業型農業への依存から脱却するのであれば意外と生涯有病率が改善することが分かっているとか、余暇の時間が増えるとか、周囲環境も回復して次世代に残せるとか、社会的な秩序が保てるような移行支援政策が構築可能だとか、一定の人口割合がそういう生活にシフトした方が社会全体として効率性を高める余地があるとか、そういう色々な選択肢が見えてくる場合は、当初の無知から恐れを感じていたネガティブなイメージが相対化されます。メリット、デメリットが見えるようになり、じゃあ、自分や自分のコミュニティにとって、どこのリスクが受け入れ可能で、今まで必要だったもののうちどれが贅沢で断捨離可能かが、段階的な移行計画の検討も含めて整理されてくるということです。これは極端な例ですが、現状の生活スタイルを持続可能な方向に転換・適応するには、様々な前提を問い直して別の選択肢を検討する必要があります。
―――コロナ禍での働き方の変化や、在宅勤務もその一つでしょうか。
(舩橋)これは一つの卑近な例ですね。同じ行動をとることになっても、選択のプロセスによって社会的な意味は大きく異なります。急に明日から在宅勤務、ステイホームで家から一歩も出られないと一方的に言われたらすごく苦痛なのですが、どちらでもいいからメリット、デメリットを調べて自分で決めましょう、と言われたらそこまでストレスではないですよね。一方でそのような選択は、持続可能性の本質に迫りたいのであれば人の生き死にが関わってくるレベルで展開されることになります。現状の生活スタイルを本質的に変えずに個人が身近にできることをいくら積み重ねても、大海に小石を投げるようなものにしかなりません。
―――食料生産に関して、私たちはどのような関わり方をすればいいでしょうか?
(舩橋)全員が何らかの割合で貢献するというイメージでいます。民主主義で言うと、職業政治家がいて政策決定を行う一方で、彼らを選ぶために投票する多くの人がいて、それぞれ1% ~ 100%までのグラデーションの中でみんなが間接的民主制というシステムの中で政治へ関わるような仕組みができています。それは最初から与えられたものではなく、階級支配との長年にわたる闘争を経てようやく近代になって多くの国やコミュニティに導入されるようになった社会組織のあり方なのです。食料生産でも、誰も完全な消費者として経済の下流に行かずに、生産者としての余地を1% ~ 100%まで残し何らかの形で関わるということが持続可能性を高め格差を解消するには重要です。食料に対して完全な消費者になってしまうことが、実は参政権・自由権・社会権などの人権を剥奪されるくらい重大な問題だと気が付いてほしいと思います。この点では、協生農法が展開しているアフリカ・ブルキナファソの新憲法草案では、国民の「持続可能な食料生産にアクセスする権利」を制定しようとしており、先進国に比べても一歩進んだ考えが出てきていると思います。
荒廃した土地でも、海から陸への生態系進出を模したメカニズムで、誰でも小規模から取り組める協生農法
―――SynecO株式会社で、これから先の5年、10年でやりたいことは何でしょうか?
(舩橋)日常会話をするように、生態系、食料生産に対するリテラシーをみんなが当たり前のように持っていてほしいなと思っています。
例えばですけど、独裁的な支配者がいて、民衆には身分制度があり年貢を納め、違う身分同士は結婚もまかりならぬ、身分が上の人に逆らえば死刑というような世界があったとしたら、「えっ」と思うわけじゃないですか。昔って多かれ少なかれそういうプレッシャーがあったわけですよね。だからこそ個人の生存より家や共同体の規範の方が重要だった訳です。そこに海の向こうでフランス革命が起こり、多くの血が流れつつも共和制を支える間接的民主制を作り上げ、権力の分散と公平の維持のために投票という形で少しずつ皆さんの時間を出し合うという仕組みが根付きました。それが日本にまで伝播して我々も素晴らしい社会の中で生きているわけですよね。今聞くと当たり前のようですが、それってものすごい変化じゃないですか。
それに対して、食料生産に関しては未だに封建制の時代にあると感じています。自分が食べるものを自分が作り出していないわけじゃないですか。つまり自分の口に入るものを、それを生み出す環境のあり方を含めて本質的に自分の意志で選択していない。農家の皆さんに感謝して買いましょうというのは、お殿様に感謝して仕えましょうというのとメンタル的にはあまり変わらないように思えてしまいます。現代の「基本的人権、自由、男女平等」という価値観からすると、食料生産の分野だけずいぶん前時代的な社会規範だなと思わざるを得ません。
誰もが当たり前のように生態系リテラシーを持ち全ての命と共に生きる未来を、拡張生態系の中で日々夢見る舩橋氏
食料生産が真の意味で民主化された暁には、「なんであんなお殿様の圧政で苦しめられていたんだろうね」とみんなが呆れたように語る時代が来るのではないかと思っています。
そこに入るきっかけとしては、環境回復だったり拡張生態系という考え方だったり、それを実装して経済活動も含めて面で広げていく活動が今後ますます社会的に重要になるところだと思っています。それは人間だけでなく生態系を含めた多くの命と本質的に関わっていくことでもあり、我々一人一人が命を持って生きている以上、多くの喜びや建設的な価値が、これまでの科学技術の発展を包摂しつつも根本的に異なる形で見出されていく時代になると思っています。そういうことが混然一体と広がっている世界を早く作りたいなと思っています。
「協生農法と拡張生態系」プロジェクトページ:
https://www.sonycsl.co.jp/tokyo/407/
SynecO株式会社についてはこちらから:
This page is available only in Japanese.