8月より開講したミュージック・エクセレンス・プロジェクトのピアノアカデミー。アシスタント講師の一人である吉岡 由衣 先生に、このアカデミーの特徴をお伺いしました。
― 先ほど、吉岡先生がご指導される1回目のレッスンが終了しました。本当にお疲れ様でした。ご感想はいかがでしょうか?
このアカデミーで前回行われた他の講師の先生のレッスンも聴講させていただいて、生徒さんたちのレベルがとても高いので、自分に教えてあげられることがあるのかとすごくドキドキしていました。でも生徒さんたちが今よりちょっとでも弾きやすくなったり、助けになったりすることが出来ればいいなという気持ちでやらせていただきました。
― そもそも、このプロジェクトに参加されたきっかけは何だったのでしょうか?
自分も演奏時の身体の使い方で悩んでいた時に、古屋先生のお世話になったことがありました。さらに、もともと留学先でヨッフェ先生に長く師事していたこともあり、このプロジェクトが立ち上がるときにヨッフェ先生からも打診を頂き、とても光栄に思ってお受けしました。
身体の使い方を理論的に学びながら、音楽的・芸術的なレッスンを受けられるというのは、私が生徒の立場でもとても魅力的でおもしろいと思っています。
― 具体的にどのような身体の使い方でお悩みだったのでしょうか?
肩を上げてしまったり、いらない力を入れて身体を固めてしまったり、幼少期からの癖や姿勢の悪さから、手を痛めて弾けなくなることを繰り返してきました。そんな時に古屋先生をご紹介頂くご縁があり、とてもお世話になりました。
― 本プロジェクトのレッスンの特徴はありますか?
レッスンで教わったことをすぐに古屋先生の見地からも教えていただけるというのはとても大きいアドバンテージだと思っています。もっと柔らかく弾いて、もっとクレシェンドをかけて、と指導した時に、そのうえで生徒さんが弾きにくい部分を古屋先生が引き取ってくださって、ここはこういう身体の使い方をしたら弾きやすいのではなどと具体的に示してくださるので、そのアプローチが生徒さん側・教える側に両方にとって、とても興味深いと思います。
― 芸術教育と身体教育の両輪のアプローチを感じられる部分があるということですね。
感覚的な面だけで生徒さんにお伝えしても理解しきれないようなところが、身体の使い方を工夫することで音がこんな風に変わるんだ、表現の幅が広がるんだという実感と驚きがあるのではないでしょうか。それが、良く音を聴くという意味での耳の訓練にもつながると思うので、効率のいい練習に結びついていくのではないかなと思います。
― テクノロジーがレッスン上でたくさん使われていることについて、どのように感じられていますか?
デジタル技術との融合がどのように可能なのかと不思議だったのですが、コロナと共に生きるという時代になって、ヨッフェ先生も(日本に)いらっしゃることができるかどうかわからないとなったときに、テクノロジーはすごく重要だなと思うようになりました。コロナが落ち着くのが勿論一番ですが、テクノロジーを発展させていけたら、将来的にはもっと簡単に海外の方ともつながれるのではと思います。
また、データとして、これぐらいの打鍵で実は弾いているというのを、感覚的にだけではなく、視覚的に捉えられるのはとてもおもしろいなと思います。
そして代々、昔のピアニストや巨匠たちから口伝えで受け継いできたことを、こうやってデータとして残してもらえるというのもすごく貴重なことだなと思いますし、だからこそ未来のために使えるようにしていきたいと思います。
― 本アカデミーでは、「指導技能の伝承」もテーマとなっています。 ヨッフェ先生から吉岡先生ご自身も、生徒の指導方法についてご指導を受けるとお聞きしたのですが、どのようなお気持ちですか?
ただただ、身が引き締まる思いですね。今までヨッフェ先生をはじめ、たくさんの素晴らしい指導者の方たちから教えを受けてきて、自分が教える立場になることはまだあまり経験がありませんでした。このプロジェクトに携われたことは、今後の自分にとっても素晴らしい経験になると思っています。
そして、生徒さんたちがヨッフェ先生の貴重なレッスンを最大限に吸収できるように、それまでの間しっかりつなぎたいという気持ちでいます。特にヨッフェ先生は、こうしたらもっと良くなるという指導の引き出しが豊富におありになると思うので、その指導法や伝え方という部分を私もしっかり学びたいなと思っています。
― 本アカデミーのご経験を、今後のご自身のアーティスト活動にどんな風に活かしていきたいでしょうか?
生徒さんたちが持ってらっしゃる曲目を、自分もある程度勉強しておかなければならず、自分が以前弾いたことがある曲でも、自分で弾く時よりさらに深く勉強する必要がありました。どうやって言ったら伝わるかな、どういうところが弾きにくいのかなとか、じゃあ、こういう練習方法を提案してみようかなとか、第三者的な立場から考えられるので、自分の練習にも活かしていけたらいいなと思います。
生徒さんごとに弾き方、キャラクター、癖が全然違うので、そこを見極めたうえで、適切なアドバイスができるようになれればと思います。必然的に私自身も今までより多角的に曲に取り組めるようになれて、演奏を深めることに非常に役立つと感じています。
― ピアノアカデミーを通して、今の若手の子たちに対してメッセージをお願いできますでしょうか?
今が一番の成長期ですし、どんどん変わっていける時期だと思うので、いろんなことを試してみてほしいです。海外に勉強しに行くことや、ピアノだけでない楽器や声楽などさまざまな音楽や、美術・舞踊など芸術に触れること、何事にも積極的にトライしてチャンスを見逃さずにつかんでいってほしいなと思います。
この(プロジェクトの)レッスンでは、ここはどういう風に弾きたいの?と聞いたときに、こういう風に弾きたいと思っています、と意見や理由をちゃんと言える生徒さんが多いので、それは素晴らしいことだなといつも思っています。言われたことをそのままやるのではなく、彼らの個性や感性を大事にしながら、世界に羽ばたけるアーティストとして成長できる環境を私たちが作れたらと思っています。
This article is available only in Japanese.