人類とこの惑星の未来のための研究

所長メッセージ
研究をすることは、未来を切り開いていくことです。そしてその未来は、各々の研究者のイマジネーションの中に存在しています。ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)は、並外れたイマジネーションを有する研究者をサポートしていくことで、想像を超える未来を創ることに貢献していく研究所です。我々人類は、驚くべき潜在能力と大きな多様性を有しており、その創造性、知的能力、身体能力などを最大限まで引き出し、テクノロジーの活用で拡張していくことは、文明のあり方すら転換し、人類の可能性にチャレンジしていくことであると考えます。テクノロジーを自己の外延として拡張した人類は、それを進化の次のステップと考えるならば、今までとは質的に異なる飛躍を遂げる可能性があります。

このような可能性がある反面、我々の社会の現実は、貧困、高齢化、食料、資源、医療・健康などの各領域で極めて難しい問題に直面しています。さらに、人類文明は、不可逆的気候遷移や生物学的多様性の喪失などの自然環境の大きな変動の原因ともなっています。これらの問題は、複雑かつ多様であり、相互に連関し、我々に極めて過酷な現実を突きつけるものであるとともに、人類文明の枠組みをも超えた惑星規模の重要課題(Planetary Agenda)であります。その解決には、領域を超えた全く新しい発想、文明の転換への意思と卓越した実行力が必要となるでしょう。

ソニーCSLは、その設立の理念として「人類の未来のための研究」を行うと宣言して発足しましたが、今日、その理念をさらに推し進め、「人類とこの惑星の未来のための研究」を行うことがミッションであると考えるに至りました。

我々は、2008年当研究所の設立 20周年の機会に、従来の閉鎖系を対象としたアプローチから、開放系を対象としたサイエンスのアプローチとして「オープンシステムサイエンス」を提唱しました。地球環境やグローバル社会システムなどは複雑な相互作用によって成り立ち、その境目が事実上定義できないシステムがオープンシステムの典型例です。我々が創造的な発想を得るときには、限られた知識のネットワークに閉じていません。さらに、テクノロジーを自らの外延化した人類は、自然はもとより社会システムとも接続したオープンシステムとなります。オープンシステムの研究は、その複雑性、開放性、唯一性から、再現不可能かつ極めて重要な現象の理解とデザインにチャレンジする研究とも言えます。このような研究では、実証科学としてのサイエンスと本来の意味でのアート(art)、つまりアルス(ars)が連動する必要があります。

そして、このようなシステムの性質に起因する問題を解決しようとするなら、広範な領域の知識を統合すると同時に、学術的な研究を超えて実際に行動し、現場へ飛び込み、場合によっては、自らがシステムの変革に関与し続けながら研究を行う必要すらあると考えます。

このような考えから、我々は「越境し、行動する」(Act Beyond Borders) という行動原理を掲げました。国や研究分野、さらには研究なのか事業なのかという境界を超越し、問題の解決のため、新たな可能性のために行動し、世の中に貢献することが我々のなすべきことだとの思いです。そして、その基点は、研究に取り組む各々の研究者のイマジネーションとオブセッションです。これはある意味で、各々の研究者が自らのイマジネーションの限界に挑むことでもあります。我々が思い描く未来の姿をどれだけ具現化できるかが問われています。未来で起きること、実現すべきことの極限をできるだけ具体的かつ詳細に想像し、そしてそれを実際に実現させる能力が問われるのです。この未来のイメージこそが、今なすべきことの方向を決めます。

ソニーCSL では、このようなイマジネーションを源泉に、精密に思い描かれた未来を具現化するプロセスをサポートします。我々の研究成果は、いわゆる学問領域の創出や学術的に大きな貢献という形で世の中に還元されることもありますが、しっかりと世の中に還元するには、具体的な行動へと展開する必要があるものも多々あります。その中には、ソニーグループの事業を通じて還元されるもの、志を一にする国内外の企業や公益事業体・政府機関を通じて具現化されるもの、さらには、我々自身が直接事業化を担うものなど各々の研究者の意思とテーマの性質に応じた多様な方法があります。

ソニーCSLは、小さな組織であり、小さな組織であり続けます。この組織が、越境し、行動して世の中を変えていくには、個人の力を最大限に解き放つこと、そして、影響力を最大化して世界に投射し続け、志を同じくする仲間たちを作り、大きなトランスフォーメーションを成し遂げることだと考えています。これは、Global Influence Projectionともいえます。ソニーCSLの組織自体も、この理念を実現するために、変化し続けます。

人類とこの惑星の未来のためのプラットフォーム、それがソニーCSLです。

北野 宏明
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
代表取締役社長
2022年2月吉日

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